「ペットの命に関わる」 コロナ禍で品薄な療法食、高額転売に怒り
「このままでは犬や猫の命に関わる」――。病気の犬や猫のための特別なペットフード「療法食」が品薄の状態になっている。新型コロナウイルスの影響で「おうち時間」が増えて世界的にペットブームが起き、供給が追いつかないためだ。動物病院でも手に入らず、診療に支障をきたしているといい、飼い主たちは悲痛な声を上げている。こうした事態をさらに悪化させているのは、品薄に目をつけ、高額販売を狙う転売業者の存在だ。【町野幸/経済部】

【かわいすぎる動物の赤ちゃんたち】

 ◇療法食の供給不足「プチパニック」

 「それまで与えていた療法食が手に入らなくなり、飼い主さんたちは『プチパニック』状態です」。今回、記者に現状を伝えてくれたのは、広島市の動物病院「まるペットクリニック」の菖蒲谷友彬(しょうぶだにともあき)院長(35)。約1年前から、メーカーから仕入れられる数量が極端に少なくなり、商品によっては完全に入手できなくなった。他の動物病院でも同じような状況が生じているという。

 療法食とは、腎臓や心臓、消化器、皮膚などの病気の治療のために与えられる特別なペットフード。疾患に合わせた栄養バランスの調整や、食欲が低下している犬や猫でも食べたくなるような香りや味の調整など、商品開発に多くの時間を要する。供給不足が生じても、他のメーカーがすぐに補うことは難しい。

 現在、供給不足になっている療法食のなかには、完全な代替品が存在しないものもある。別のメーカーの類似の商品を与えても、すぐに食べてくれないことも多く、診療に大きな支障が出ているという。

 菖蒲谷院長のクリニックには飼い主たちから「療法食はいつ入荷するのか」といった問い合わせが続いており、インターネットで情報発信を続ける院長のもとには「代わりのエサで下痢をしてどんどん痩せていった。本当にかわいそうで苦しかった」といった悲痛な声も寄せられたという。

 ◇コロナ禍で世界的な「ペットブーム」に

 なぜ、療法食が品薄になってしまったのか。その大きな理由は、コロナ禍をきっかけにした世界的な需要の急増にあるという。

 療法食は海外で製造された輸入品が中心で、調査会社の富士経済によると、「ロイヤルカナンジャポン」と「日本ヒルズ・コルゲート」の2社で日本市場の約9割を占めている。

 ロイヤルカナン社は取材に対し「コロナ禍で家で過ごす時間が増えたことから、欧米を中心に新たにペットを飼い始めた人が多く、需要の急増につながった」と説明する。世界的な引き合いの高まりに生産が追いつかないのに加え、コロナ禍に伴う輸送体制の混乱が供給の遅れに拍車をかけているという。

 こうした品薄のもとで、今、大きな問題が生じている。転売目的で買い占めを行う通称「転売ヤー」により、療法食が大手インターネット通販サイトやフリマアプリで定価の数倍もの高額で転売されているのだ。実際にサイトをのぞいてみると、犬の消化器疾患の療法食の缶詰が約10倍の値段の3500円で出品されていた。

 療法食はもともと、メーカーが動物病院に卸すことを前提に製造していた。診察を受けずに自己判断で与えた場合、かえって体調を崩してしまうこともあるからだ。しかし、近年はホームセンターなどの量販店やペットショップ、大手通販サイトでも買うことができるようになった。

 コロナ禍での品薄状態に目をつけた一部の「転売ヤー」が量販店などでわずかな在庫を買いあさって転売しているとみられ、商品の転売で稼ぐ「せどり」に関する複数の情報サイトには、療法食は「転売で高い利益の出る商品」として紹介されているほどだ。こうした状況の中でも、療法食がどうしても必要な飼い主は高額で転売品を買ってしまっている現状がある。

 「高額転売の商材にしてお金を稼ぐというのは、病気の犬猫の飼い主の足元を見ている最低の商売。命に関わることなので、絶対にやめてほしい」。菖蒲谷院長は、大手通販サイトやフリマアプリの事業者に対し、サイト上での療法食の高額転売を規制するよう求める署名活動をインターネット上の署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」で7月30日から開始した。できるだけ多くの賛同を集め、事業者に規制導入を働きかける考えだ。

PETLIFE24事務局2021.09.03

NEW 投稿一覧 OLD
このページのTOPへ
Copyright(c) INUKICHI-NEKOKICHI NETWORK, ALL Rights Resrved.