九州では絶滅したとされるツキノワグマの骨が、熊本県八代市泉町の京丈山の洞穴で発見された。元熊本市立熊本博物館学芸員の北村直司さん(67)=熊本市中央区=が2014年に見つけて形状や年代を調べ、1976年に同じ洞穴で見つかっていた頭骨と同じ個体の骨とみられるとの研究結果をまとめた。
九州のツキノワグマは1941年以降、生息が確認されていない。骨は断片的に数点しか残されていないが、北村さんが発見した骨は首や胸、足など50点に上る。
北村さんは、これらの骨を熊本博物館に保存されている76年発見の頭骨と突き合わせて、(1)同じ部位がない(2)後頭部と首の関節が合致する(3)生息年代が弥生時代前期ごろで重なる?ことを主な根拠に「同一個体の可能性が極めて高い」と結論付けた。
体重118キロ、体長110センチ超の成体。陰茎の骨があることから雄と推定している。国内外のツキノワグマとも頭骨の計測値を比較し、中国地方西部に生息するグループに近いことを確認した。既存の頭骨と合わせて全身骨格の復元も可能という。
クマの生態に詳しい東京農大の山崎晃司教授は「九州のツキノワグマの形態的な特徴を明らかにする意義ある発見」と評価している。
研究結果は、7月発行の日本哺乳類学会の機関誌に掲載されている。
◇九州のツキノワグマ 1941年に祖母・傾山系で捕獲されたのを最後に生息が確認されていない。57年に子グマの死体が発見されたが、アナグマの可能性が指摘されている。87年には大分県側でツキノワグマが猟師に射殺されたが、本州に生息するグループと後に判明した。環境省は2012年、既に絶滅したと判断した。
絶滅動物の生態に迫る
八代市泉町の京丈山でツキノワグマの骨を発見した北村直司さん(67)は、熊本市立熊本博物館でニホンオオカミの全身骨格を復元した実績がある。今回の発見は、45年前にニホンオオカミと共に骨が見つかった同じ洞穴での探索が発端で、絶滅動物の生態に迫る新たな成果と言える。
京丈山の洞穴では、1976年に熊本商大(現熊本学園大)探検部がツキノワグマとニホンオオカミの頭骨を同時に発見した。77年には熊本博物館や熊本日日新聞社の合同調査でニホンオオカミの体の骨が見つかり、北村さんが2001年に全身骨格を復元した。
ツキノワグマの頭骨は博物館に保存されてきたが、「詳細を尋ねられても答えられる資料がなかった」と北村さん。一念発起して13年に調査に乗り出し、過去の記録や写真を手掛かりに洞穴の場所を突き止めた。14年の退職後には探検家に同行を頼んで険しい洞穴に入り、多数の骨を探し当てた。
さらに7年がかりの個人的な研究で論文をまとめ上げ、「全身骨格の復元に向けた動きにつながってほしい」と期待する。発見した骨は、宇城市の県博物館ネットワークセンターに寄贈した。
ほぼ半世紀ぶりの新発見に、77年の調査に副団長として参加した生物研究者の入江照雄さん(85)=熊本市西区=は「骨格が復元されたら、ぜひ見たい」と感慨を語った。(小林義人)
https://kumanichi.com/articles/385897
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2023/11/06